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追っ手からの襲撃もなく、精霊に構われるのも飽きてきたので街に繰り出してみた。
他者と関わろうなんて思いもしなかったが、やたら人当たりのいい雪虎のおかげで少しばかりなら生き物の営みというものを見てみようという気持ちになっている。
知らなかったがこの国には露天商というものがあるらしく軒先で手軽に買い物ができるらしい。
遠目にのぞいてみると焼き菓子や飲み物、小さなパンに葉野菜と脂身の少ない鶏肉を挟んだものなどが並べられている。

「このパンに挟んである鶏肉は燻製してあるしクセの少ないチーズが入ってておいしいよ」

「そろそろ店を閉める時間だし、安くするからどうだい?」

そう言って手招きしてきた夫婦の店には食べ物だけじゃなく職人の手作業がうかがえる装飾品も置かれていた。
色味を抑えたビーズやリボン細工は目に優しく、百合のような小花が揺れる耳飾りが特に印象的に残る。
おそらく旦那が細工を作り最初に声をかけてきた女性が食べ物を作っているのだろう。
そこで見覚えのある布地のチョーカーが目についた。
そうだ、この布地は。

「いつもは売れ残らないんだけど最近来てくれる子が昨日から来ていなくてね」

「そうそうちょうどそのチョーカーを気に入ってくれた子だ」

「うちのパンも美味しいって毎日来てくれてたんだけど、どうしちまったのかね」

客になんて話を聞かせるんだと思ったがそういう風土の街なのかもしれない。
それよりも気になってしまったことがあるのでつい口を挟んでしまう。

「それは白い虎の獣人か?」

「そうそう!あんたも知ってんのかい」

「ああ、たまたま声をかけられた」

「愛想のいい子だよね、よく笑うしあの子と喋るのが楽しみでもあったんだが」

「希少な種族を奴隷商に流す集団が活発になってるって聞くし心配だな」

「ああ近くの森を根城にしてるって噂の人攫いの奴らかい」

「この街は警備隊が多くないから協力してはくれないだろうし……」

どうしたものか、と話し合う夫婦を前にして『らしくない』とは思った。
ただ、状況を見据えた時に最適解だとも思えた。
だからこそ眉間に深めのシワが寄っていた事は自覚している。なぜだろうとも思う。だけどそれ以上に解決しないと寝覚の悪さもあった。だから。

「俺が確認してきてやる。その集団の根城を教えろ」

他者とわざわざ関わってなおかつ助けに行こうなんて生まれ故郷にいた頃は思いもしなかっただろう。
こんな気まぐれを起こすのは今日だけだと言い聞かせながら教えられた森へと向かったのだった。
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