2

いつもと同じ空が流れる。
小さな島で住民の顔を見ただけでどこに住んでいる人か、とかどんな話をしていたか、とかがすぐに思い出せる程度に平凡な毎日。
「いい野菜が出来たから庭に置いといたよ」なんて会話は日常茶飯事で、人の暖かい所。

ただしそれは同じ身分で括られた人達の話。

精霊の姿を視認できる者は“神の宿る地”たるルミエール島の為、本人の意思関係なく姫巫女として優遇される。
村に下りれば「シエロ様、シエロ様」と崇められることが当たり前で、疎外感に似た寂しさを感じた。
大して面白くもない講義を聞き流しつつ、頬杖をつきながらゆっくり飛び回る鳥を目で追っていると
「聞いていますかな?」としゃがれた司祭の声が飛んでくる。

じとっと見返して飽きたアピールをしてみても、さして効果がないことはわかっている。
だが、たまにはという事はないだろうかと期待をしてみた。
結果は勿論「シエロ様はこの島唯一の姫巫女様なのですぞ」といつも通りお決まりの文句を出されるだけだった。
面白くなくなってそっぽを向いていると見かねたのか休憩を提案される。
どうせ何を言ったって「姫巫女さまだから」で片付けられるんだ。
普通でいたいだけなのに、そんな事を許してくれない。

「暑いから、着替えてくる」

むすっとしながら自室に駆け込んで後ろ手で木の扉を閉める。
まるで自分だけが世界に置き忘れられてるみたい。
詰まりそうな息苦しさに思わず膝を抱え込みそうになった。

精霊と話せるのは楽しい。
彼らはいつも楽しそうに笑いかけてくれる。
でもそれの代償が誰も私のことを知らないみたいになるなら。

こんな力、なければよかったとさえ思う。

このまま私が私でなくなるのは、いや。
都合良いだけのお人形みたいなままで終わりたくない。

小さく息を吸えば、頬を撫でる風が ふわりと髪の間を通った。
顔を上げて窓を見ればそこから真っ直ぐに海へと続いている。

ーー何かが、弾けた気がした。

テラスから体を乗り出せば、出来ないことはないような感覚が身を包んでいる。何故か、躊躇いはなかった。

手摺に足をかけ、飛び越える。
二階に相当する高さだが、神殿の裏は葉の多い森が続いていて土が柔らかい事を知っている。

かすかに体勢を崩したが、予想通り動けなくなるほどの襲撃はなかったことに安堵する。
そして少女は振り返ることはせず、前だけを見て走り出した。
スポンサードリンク


この広告は一定期間更新がない場合に表示されます。
コンテンツの更新が行われると非表示に戻ります。
また、プレミアムユーザーになると常に非表示になります。