街のはずれにはちみつ売りがいた。
目鼻立ちが整っているわけではないが働き者で人当たりもよいので町に降りては歓迎される。
高級品でもある蜂蜜は小さな町ではおおよそ利益を見込めないだろう、生活も苦しいのではないかと
心配になった町の住人は訪ねた。

「もちろん裕福な暮らしは出来ませんが、僕にはこれくらいで十分です」

何故そこまで欲がないのか、なんの為にやっているのかと問われると彼は困ったように頭を掻いた。

「世界を救うため、ですかね」

それを聞いた人たちは面白いことを言う、冗談も言えるじゃないかと笑い飛ばし帰路についた。
彼は小さく頭を下げてから、同じく自分の住処へ帰っていった。
落とした呟きは誰にも聞かれることはなく風に溶ける。
「長い年月を必要とするのです」


ある時小さな町に子供が産まれた。
町の人間が祝福する中、はちみつ売りの彼は手土産に大きな瓶を差し出した。
祝ってくれて嬉しいが高級品である蜂蜜をこんなにもらってもお金は払えない、と断ろうとした。
しかし彼は朗らかに笑い、首を振った。

「お金がほしい訳ではありません。
栄養の高いものを産まれた子にたくさん与えてあげてください。
それが僕の願いです」

そう言って彼は立ち去った。

他の町でも子供が産まれる度に彼は現れ、祝福だと蜂蜜を配り歩いく。
噂は広まり、子供が産まれたら蜂蜜を与えるという風習が徐々に広まった。
栄養価が高く歯のない子供でも食べられることから有用だと人々は語り継ぎ、産まれたばかりの子供に与え続ける。

そこから長い年月が経ち
今では産まれた子供が大人になることはなくなっていた。

人口の少なくなった世界は、自然が壊されることもなく
動物たちはのびのびと過ごす風景に満たされていた。
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