その青年は、いつも死に場所を探しているようだった。
生きる理由を探している、というより
「ここで終わってもいいか」を確かめて歩いているような目をしていた。
名を問えば名乗るが、
こちらが覚えていようと忘れていようと構わない顔をする。
掴もうとすると、霧のように指の隙間から逃げていく青年だった。
「……あんた、死にたがりだな」
そう言ったのは、隣を歩く壮年の男だった。
無精髭に、少し使い古した外套。
若い頃は随分と遊んだらしく、歩き方に癖がある。
青年は答えなかった。
代わりに、遠くの空を見上げる。
「否定しねえのか」
「否定する理由が、ありません」
声は静かで、感情の起伏が薄い。
それが、男にはどうにも気に食わなかった。
「俺な、若い頃は死ぬほど生き急いでた」
「……そうですか」
「酒と女と賭け事と、喧嘩もした。
明日なんて来なくてもいい、って思ってた」
青年は、少しだけ首を傾けた。
「似ていますね」
「どこがだ」
「あなたは、生きるのが怖くなかった。
僕は、生き続けるのが怖い」
男は足を止めた。
青年も、少し遅れて立ち止まる。
「生きるのが怖くない奴なんて、いねえよ」
「でもあなたは、逃げなかった」
「逃げ損ねただけだ」
そう言って男は笑った。
軽く、肩の力を抜いた笑い方だった。
「なあ」
「はい」
「死にたくなったら、俺のところに来い」
「止めるんですか」
「いや」
男は外套のポケットに手を突っ込み、空を仰ぐ。
「死にたい理由が、くだらなくなるまで
一緒に酒でも飲んでやる」
青年は、少し驚いたように目を瞬かせた。
そして、ほんのわずか――本当にわずかに、口元が緩む。
「……それは」
「悪くないだろ」
「はい。悪くないですね」
その夜、青年は死ななかった。
理由はない。
ただ、隣にいる男が、
生きることを大げさにしない人間だったから。
男もまた、気づいていなかった。
自分がいつの間にか、
この掴みどころのない青年の“錨”になりつつあることに。
生きる理由を探している、というより
「ここで終わってもいいか」を確かめて歩いているような目をしていた。
名を問えば名乗るが、
こちらが覚えていようと忘れていようと構わない顔をする。
掴もうとすると、霧のように指の隙間から逃げていく青年だった。
「……あんた、死にたがりだな」
そう言ったのは、隣を歩く壮年の男だった。
無精髭に、少し使い古した外套。
若い頃は随分と遊んだらしく、歩き方に癖がある。
青年は答えなかった。
代わりに、遠くの空を見上げる。
「否定しねえのか」
「否定する理由が、ありません」
声は静かで、感情の起伏が薄い。
それが、男にはどうにも気に食わなかった。
「俺な、若い頃は死ぬほど生き急いでた」
「……そうですか」
「酒と女と賭け事と、喧嘩もした。
明日なんて来なくてもいい、って思ってた」
青年は、少しだけ首を傾けた。
「似ていますね」
「どこがだ」
「あなたは、生きるのが怖くなかった。
僕は、生き続けるのが怖い」
男は足を止めた。
青年も、少し遅れて立ち止まる。
「生きるのが怖くない奴なんて、いねえよ」
「でもあなたは、逃げなかった」
「逃げ損ねただけだ」
そう言って男は笑った。
軽く、肩の力を抜いた笑い方だった。
「なあ」
「はい」
「死にたくなったら、俺のところに来い」
「止めるんですか」
「いや」
男は外套のポケットに手を突っ込み、空を仰ぐ。
「死にたい理由が、くだらなくなるまで
一緒に酒でも飲んでやる」
青年は、少し驚いたように目を瞬かせた。
そして、ほんのわずか――本当にわずかに、口元が緩む。
「……それは」
「悪くないだろ」
「はい。悪くないですね」
その夜、青年は死ななかった。
理由はない。
ただ、隣にいる男が、
生きることを大げさにしない人間だったから。
男もまた、気づいていなかった。
自分がいつの間にか、
この掴みどころのない青年の“錨”になりつつあることに。