1

旅一座として各地を渡るようになって暫くした辺りで帝国に近い栄えた都市での興業依頼があった。
依頼元は祭り好きの街のようで、毎年行われている収穫祭に花を添えてほしいとのこと。
投げられた銭はそのまま持ち帰っていいし必要な道具は揃えてくれると言う太っ腹具合だった。
予定行路も大幅に逸れるということはなかったので断る理由もなく快諾して今に至る。

「でもさー、なんか胡散臭くないかー?
なんか いい話すぎるって言うか…」

衣装を揃える為に一座で買い物に出ていたのだが口を開いたのは1番歳の若い兎の少年だった。
露店に広げられた布にはさほど興味がないらしく頭の後ろで組んだ両腕ごと空を仰ぎ見る。垂れたウサギ耳が特徴的でその低身長は多数の目には「かわいい」と映るだろう。

「こうさぎちゃんはスラム育ちだものね。
警戒する気持ちもわからなくはないわ」

対して長い朱髪を顔の横で結い上げた女性はその髪を風に遊ばせながら露店の布を手際よく買い集めていく。

「全部を信用するのは良くないけど、世の中には純粋に援助したい気持ちの人がいてくれるのも事実よ」

女性が魅惑的なウインクをしたと思えばその意を汲んだのか近くで布を見ていた知的で健康的な体つきの少女も頷いた。

「わたし達はそんな人を知っているでしょう。
損得関係なく純粋に助けてくれる人を」

「そうだけどさー」

「座長のあの人が判断を間違えるとは思えないわ」

続く少女の言葉に兎の少年もその人物はすぐに思い当たったようで口を尖らせた。

そう、彼女達は最近名の売れ始めた旅芸人の一座で種族や経歴問わずに集まった芸事のプロなのだ。
座長の白い虎の獣人の名をそのまま使いカプラの一座、という名前で各地を旅している。

ただ、尾鰭が付いていつの間にか大きくなりすぎてしまった噂では各地の厳しい選考をくぐり抜けた猛者達の集まりなどと言われている。
実際は気ままに旅をして自分達の特技を活かした興行をしているに過ぎないがいつの時代も少し大盛りくらいの方が人々の心をよく射止めるらしい。
スポンサードリンク


この広告は一定期間更新がない場合に表示されます。
コンテンツの更新が行われると非表示に戻ります。
また、プレミアムユーザーになると常に非表示になります。