海鳥の鳴く穏やかな砂浜。海へと続く高台に彼女は背を向けて静止した。
岩礁に波の当たる音が聞こえる。

「ねえ、クロエ...あたし、島のそとを見てみたい」

悲しみを湛えた瞳に射ぬかれて思わず息が止まる。
姫巫女という役割は生まれながらに決まっていたと聞いた。いつも明るく振る舞ってはいるがそれは本当に望んだことなのだろうかと疑問は残る。

それでも、この島にとってなくてはならない存在だと誰もが理解をしている。彼女だって、わかっているはずだ。

「お前は姫巫女だ。万一のことがあってはならない」

誰でもその役目になれる訳ではない。
羨望と希望を抱いて大切に、大切にされてきた島の象徴。
神の宿る地と呼ばれる所以を、ずっと守り続けてきた。
今までも、これからも。変わることなく受け継がれる慣習。

「都合いいだけのお人形は、やだよ...」

あたしは、あたしなの...。
小さく聞こえた声に返す言葉を探していると、諦めたような彼女はくるりと向きを変えて海と空の境界に近付いていく。
それ以上行って落ちたら危ない、刺激しないよう歩幅を合わせて距離を詰めていけば、半身で振り返った口は「ごめんね」と動いていた。

「...ッ、シエロ‼」

事態を理解する前に体は走り出していた。
世界の青に身を投げ出した彼女を、青年は全霊を懸けて追いかけた。
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